チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

【転載の続き】
その結果、図2右に見られるように、汚染地区での先天異常の増加が認められた。その内容は、二分脊椎、唇裂口蓋裂、多指症、欠指症、ダウン症、心臓や尿路奇形、複合合併奇形など多岐にわたる。
 これらの結果はアメリカ、ヨーロッパおよび2001年、2003年にキエフで開かれたIAEA、WHO、被災3共和国などが主催した国際会議でも発表され、公認されている。
 ちなみに、ミンスク遺伝疾患研究所は事故より19年前の1967年に設立され、奇形学や人類遺伝学の研究、診断治療に取り組んできた。事故前、事故後を通じてヒト胎児・新生児の剖検数は2万例を超え、末梢血や妊婦の羊水穿刺も含む染色体検査例は2万例に近い。ラジュク教授が示している資料には、ヒトの試料収集のシステム作りや長年にわたる地道な調査と研究の背景がある。
■不適切な汚染地区の設定が原因
 ラジュク教授の説明によれば、かねてから遺伝疾患研究所の調査研究に関心を寄せミンスクを訪れていたフランスの某研究所が2〜3年前、IAEAからの支援を受け、ミンスクでの先天異常調査を申し込み、汚染地区の設定をラジュク教授とは異なる州単位を主とした区分けを提唱してきた(図2左)。
 それによると、汚染地区の中に非汚染地区が混在し、同様に対照地区の中にも汚染地区が混在している。ラジュク教授はこのような区分に異論を唱えたが、得られた結果は図2左にみられるようにラジュク教授の結果と相反し、先天異常の頻度が汚染地区と対照地区でみごとに逆転している。
 フランスのグループは図2左右の両方を持ち帰ったが、チェルノブイリ・フォーラム報告書ではラジュク教授の資料は消され、フランスグループの図だけが掲載された(図1)。
 ラジュク教授の設定が合目的で正しいと考える私は、同席したNHKのジャーナリストと、この説明を聞いたが、驚きのあまり声も出なかった。ラジュク教授はIAEAに反論したが、結果は変わらないとのことであった。何のために新しい汚染地区の区分が行なわれ、その結果だけが採用されるのか?
 私見では、現場での調査に長年携わり被災の実情を体感している研究者がこのような結果を出すはずがない。本件の場合、不適切な汚染地区の設定に問題があるのだが、被災の中間報告を出そうとする場合、会議にはさまざまな資料が提出される。
【転載続く】