チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

【転載の続き】
それらを通じて間接的にしか事情を把握し得ない、いわゆる専門家と称される人たちが議論を進める中で、最小公倍数的な結論に誘導されるのは想像に難くない。チェルノブイリ・フォーラム報告書をよく見ればラジュク教授の名前が使用され本人の意思に反した図が採用されているが、執筆者や編集責任者の名前は記されていない。これはもはや学術的報告ではない。不特定なグループによって記された正確さを欠くメモとしか言いようがない。
 先天異常の図の件は、これで終わったわけではない。本文の終わりに記すように、チェルノブイリ被曝者の遺伝的影響についても関わってくるのである。
IAEAの姿勢
 私が初めてチェルノブイリの被災の実状調査のため現地を訪れたのは1990年6月だった。そのときの報告は、『憂慮される癌の多発 定住続ければ遺伝的影響も』とのタイトルで中国新聞(1990年8月4日付け)に掲載された。翌1991年の調査時には、人口10万に1人くらいしかみられない小児甲状腺ガンがミンスクの汚染地区の子どもに40例出現していた。現地の医師や被災者たちは早くからその異常に気づいていたが、意外にも政府当局やIAEAから被災者の健康調査を依頼された日本の放射線影響の専門家たちが被曝線量が不明、潜伏期が短い、統計処理が不備、発生のメカニズムが不明などの理由で認めようとはしなかった。
 線量の発掘、適切な統計処理、メカニズムの解明などは症例の収集を続けながら同時並行的に行なわれるべきものである。まれな小児甲状腺ガンが多発しているか、否か、一目見ればわかる簡単な現症について長い間不毛の論議が続いた。そのため放射能災害に対処する政府や医療関係者などに対して不信の念が現地や日本の識者らの間に浸透した。数年間で数百例もの小児甲状腺ガンが発生し、WHOはチェルノブイリ事故を除外しては考えられない、とする消去法的説明で認めた。IAEAやWHO、およびいわゆる「科学者」が被災の実情を容易に認めない理由の1つに、ある疾病や異常の発生に放射線依存性が認められないと「科学的証拠」が立証されていないとして切り捨てる姿勢がある。
 確かに放射能による疾病、異常、あるいは死亡の原因究明には線量測定、可能ならば個人被曝線量を同定して線量依存性を確かめることは重要な診断基準である。
【転載続く】