チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

【転載の続き】
このような作業は広島や長崎の原爆被爆のように爆弾中のウランやプルトニウムの量が明らかで、放射能による災害が同心円状に広がった場合には比較的容易に行なわれた。しかし広島の場合といえども、アメリカ、日本の線量評価の専門家によって長い期間検討され、2回も線量修正が行なわれた。原爆被爆者の調査によって白血病や各種固型ガン、小頭症などを惹起する放射線量の基準の設定には貴重なデータが得られた。しかし、複雑な放射能汚染形態であるチェルノブイリ災害に同じ方式を適応して、それが得られなければ放射能が原因であるとは認めないとするのでは、放射能災害の全体像を知る上で無策というほかはない。被曝者群と対照群の比較において被曝者群に特定疾患数の上昇が有意に認められたならば限りなく放射能の影響が疑わしいと考えるのは当然であろう。
 広島でも爆心地から2km以内での被曝を被爆者、2km以遠を対照例として統計処理されている。個人被曝線量もすべての被爆者で判明しているわけではない。10数万人の生存被爆者中の約9万人であり、それは日本の家屋モデルを用いて計算された推定値である。
放射能災害を見る目
 1975年版NHK『核放射線原爆症』の中で、故飯島宗一先生(広島大学学長、名古屋大学学長を務めた病理学者)は、「ジョンス・ホプキンス大学の実験で発疹チフスがほとんど治癒したサルに中等度の放射線を照射したところ、多くのグループでチフスが再発した。広島の原爆被爆者にみられた症状は、それが原爆の故ではないと完全に証明されないかぎり、放射線が直接、または間接的に身体に影響を与えたものと考えるべきである」と述べられている。私はこのような考え方が内科診断学、あるいは病理診断学の真髄であり、この考え方や表現は決して放射線生物学や線量測定の専門家とも相容れないものではないと考える。
 文中、「広島の原爆被爆者」を「チェルノブイリ被災者」とおきかえて考えてみても、まさに然りである。しかし残念なことに、いままで私が接した多くの日本の「科学者たち」は、前記の表現とは異なり、「チェルノブイリ被災者にみられた症状は、それがチェルノブイリ事故の故だと完全に証明されない限り、チェルノブイリが原因だとは言えない」というような表現をする。
【転載続く】