チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

【転載の続き】
放射能による影響を過大にも、あるいは過小にも評価しないために、われわれはそれを見る立場と視点をしっかりとおさえておかなければならない。
 IAEAに関係する人びとの発言には、被災の状況を過小評価する傾向があるのはたびたび感じるところである。これは常に「科学的」という美名のもとで、調査を行ない診断を下してきたばかりではなさそうなのだ。キエフの国際会議で、原爆被爆者とチェルノブイリの被曝の影響調査で功績のある某著名アメリカ人学者から得られた情報によれば、「人心安定と将来の補償問題も考慮して、事故の影響をおおげさに言ってくれるな」と共和国の政府関係者から頼まれたということであった。原爆被爆者の調査研究で日本政府から表彰されたこともある、この真摯な老学者の説明は端的でわかりやすく、私は信がおけるのだ。被災した共和国からのそのような「錦の御旗」の後ろ盾があればこそ、「原子力発電推進派が被曝の状況を過小評価するのは、みっともない」という羞恥心も無きがごとくにふるまえる人もいるのであろう。
■遺伝的影響の兆し
 ミンスク遺伝疾患研究所では、これまでに2万例以上の剖検例と2万例に近い染色体検査を行なってきたことは、すでに述べた。1996年の資料を例にとると、汚染地区での染色体検査では新生児1543例中152例(9.9%)に異常を認め、妊婦の羊水穿刺では1960例中97例(4.9%)に異常を認めた。日本での出生時の染色体異常児の頻度は約0.2%なので、それと比べても現地での頻度は極めて高い。遺伝疾患研究所では数年来、胎児・新生児の剖検例や染色体検査例を整理した。事故前0.3〜1.3‰のダウン症が事故後1年で2.6‰に増加し、その後もジグザグながら、やや高値を示し(図3)、しかもその発生地域が、事故後のセシウムを含む雲の流れに沿っていることも水文気象研究所との共同調査で確認された。
 遺伝疾患研究所の資料から209組の染色体異常児と、その親たちの染色体所見が抽出され解析に供された。209例中64例がダウン症で、残りの145例もさまざまな染色体異常例である。図4に示すように汚染地区で親に生じた突然変異型の性染色体異常によって、その子どもにダウン症、クラインフェルター症候群のようなトリソミー(三染色体)の染色体異常の疾患が増加している。
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