チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェル

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 ダウン症の多くは受精前の母親の卵細胞分裂時の染色体の「不分離」が原因。その誘因に母親の高年齢出産が知られているが、これら現地の資料では結婚、出産年齢は若く35歳未満の出産だけである。成書にもダウン症は「遺伝による発生のひずみ」の範疇に明記されている。放射能による遺伝的影響が生じる場合、突然変異による親の染色体異常を通じて次世代に染色体疾患として現れるのは充分に考えられることだ。UcidaとCurtisはカナダで、81例のダウン症と、比較として81例の唇裂児の母親の妊娠歴を調べ、いまから約60年前の1947年に、妊娠中に胃・腸管系や尿路系の診断のため腹部レントゲン検査を4回以上受けた母親から生まれたダウン症は81例中23例(28.3%)、同様に4回以上レントゲン検査を受けた母親からの唇裂児は81例の唇裂児中3例(3.7%)で放射線被曝でダウン症が増加することを示唆している。一方では、後述するように広島の被爆者の子どもにはそのような結果が得られていないところからSchullとNeelらの異論もある。
 動物実験では親の性腺に放射線を照射して次世代にさまざまの奇形やガンを誘発させた報告は多い。しかし人類ではどのような影響が現れるのか、経験や資料にとぼしい。今後も長期にわたる観察が必要と考えるが、2003年、キエフで開かれたWHO、IAEAや3共和国主催のチェルノブイリ被災者に関する国際会議の終了後に出されたまとめの決議文中には、ラジュク教授らの発表を踏まえて、「高汚染地区に住む被災者に奇形や遺伝性疾患の子どもを出産するリスクが増加している」と明記された。
チェルノブイリ・フォーラムは遺伝的影響も否定
 しかし2006年版のチェルノブイリ・フォーラムは「チェルノブイリの被曝線量では遺伝的影響は起こりえない」としている。現場での地道な調査研究を経験していない「彼ら」は遺伝的影響が生じるとすれば奇形かガン、あるいはメンデルの法則にしたがう優性、劣性遺伝性疾患などが生じるという前提で考え、放射能による遺伝的影響がダウン症のような染色体の疾患として生じているのを承知していないのではないか?
 被曝線量について議論するならば、低線量被曝の影響については不明の点も多い。従来の定説としては奇形はある程度のしきい値を超えた線量の被曝でないと生じないとされた。【転載続く】