チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

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 被曝線量について議論するならば、低線量被曝の影響については不明の点も多い。従来の定説としては奇形はある程度のしきい値を超えた線量の被曝でないと生じないとされた。将来の奇形発生率の予測が難しいので非確率的影響と呼ばれ、これに対して遺伝的影響やガンの発生については、人類集団が低線量でも被曝すると将来、ある確率で発生するとされ確率的影響と呼ばれている。すなわち低線量域でも遺伝的影響やガンは起こりうるとする説である。
 この点からすると、IAEAの「低線量では遺伝的影響は起こらない」という説は成立しないことになる。さらには、放射線生物学の領域では自然な突然変異によって生じる遺伝的変化を倍増させる放射線量を「倍加線量」と呼んでいる。動物実験結果などを外挿して国連科学委員会は1958年に10〜100ラド(代表値30ラド)と発表したが、1966年には代表値を70ラドに引き上げた。そのことで遺伝的影響を予測するための人為的ハードルは高まった。
 チェルノブイリの場合、1平方キロメートル当たり40キュリーの汚染地区に20年住むと約30レム(300ミリシーベルト)の被曝線量と換算される。しかし、倍加線量というかなり幅のある推定値をIAEAが遺伝的影響を否定する理由のひとつにしているとすれば、その上に放射線感受性の個人差のバラツキも加味されて、その根拠は希薄と言わざるを得ない。人類は他の種に比べて放射線に対する感受性が強く、個人差はあるが50ミリシーベルト以上で染色体異常を生じ、原爆小頭症は妊娠8〜15週の臨界期では200ミリシーベルト以上で増加した。チェルノブイリの被曝によるガンの発生や死亡者数の推定には原爆被爆者調査の結果が参考に供されている。ガンや死亡数はさまざまに推定されても「彼ら」には遺伝を語る根拠がない。なぜなら、原爆被爆者では遺伝的影響についてはポジティブなデータが得られていないからだ。被爆者の次世代の染色体の検索は放射線影響研究所の阿波章夫遺伝学部長(当時)らによって精力的に行なわれた。1967〜1984年の結果では、被爆者8322例、対照群7676例が調べられたが、両者間に染色体異常の有意差は認められなかった。ダウン症については対照群にはみられず、被爆群に1例認められた。
【転載続く】