チェルノブイリ原発事故による先天異常と遺伝的影響の兆し−チェルノ

【転載の続き】
人類で遺伝的影響が検討され立証されるためには、当然のことながら男女が結婚し次世代が生まれなんらかの異常が認められなければならない。原爆被爆者の多くは亡くなり、罹患し、あるいは不妊となり、あるいは社会的経済的理由で結婚できなかった方も居られたであろう。調査の対象となった方々はさまざまな自然的、人為的淘汰を乗り越えられた方々に相違ない。

 その点、チェルノブイリでは親の染色体突然変異を生じ得る低線量放射線が作用し、それを継承した次世代が調査の対象となり得る条件が整っていたと思われる。遺伝的な影響が原爆被爆者の白血病チェルノブイリの小児甲状腺ガンのように多発することはありえない。流産や死産などさまざまな淘汰が働くからだ。影響が生じたとしてもごくわずかな異常が散発的に生じるに相違ない。
 現在は人類の移動がさかんで固定集団での人類遺伝学的調査は困難であるが、1958年の北アイルランドでのStevensonの調査では、一般の人類集団にみられる出生児の異常の頻度は、自然突然変異によって繰り返される遺伝性疾患、常染色体や性染色体異常の疾患、多因子性の奇形、原因不明の異常なども含めて、それらがすべて同時に発生した場合を考慮しても上限は約2〜3%である。仮に放射線被曝によって異常が「倍加」したとしても、その頻度は数%どまりであろう。遺伝的影響の長期にわたる観察で重要となってくるのは、このわずかな異常を察知しうる研究者とシステムの存在であろう。現場ではすでにそれが機能しているのである。以上の諸点を勘案するとIAEAが遺伝的影響を否定したのは、早計でかつ根拠にとぼしいといえる。
 これまでの経過をみると、IAEA出先機関に相当する各国の国際学会や会議で公表、承認された事項を本部での会議を通じて無効にする不思議な機能を有している。
■結論
 2005年のチェルノブイリ・フォーラムはチェルノブイリ原発事故による先天異常の増加や遺伝的影響について否定したが、私はミンスク遺伝疾患研究所のラジュク所長との15年にわたる共同調査、交流を通じて得られた資料と体験をもとにして、それらへの反論を述べた。
【転載続く】